Deja-vu ステージ写真 (写真は神戸公演より。photo by Wakao Chihara)
鮮烈な音楽とともに幕が上がる
函館、五稜郭。ある日の夜、土方の周りには京都時代からついてきた新選組隊士たちが集ってきた。
敵から奪った酒を振舞ってくれた土方に感謝を述べつつ、数少なくなってきた隊士たちは
散っていった仲間へ想いを馳せる。
「あいつらを見ていると、負ける戦も勝てそうな気がする」
土方は彼らを見送り、ひとり函館の町を眺める。桜の花びらのような雪が降り始め、過去が蘇ってくる...
まだ、彼らが日野にいた頃...。
道場主だった近藤勇と土方歳三は、激動する情勢に契機を見出していた。
「俺はあんたを大名にして、俺は日本一の侍になってやる!」
土方の夢は力強く、近藤を奮い立たせた。
「これからの時代を生き抜くために、俺たちは義兄弟にならないか」
近藤の申し出に、それを聞いていた沖田総司も割り込んでくる。
「私も仲間に入れてください!」
近藤は道場をたたみ、京へ行く決意を固める。それは、妻・ツネを江戸に置いていくことも意味していた。
「ツネは近藤勇の妻でございます。どうぞ、ご武運を」
ツネの激励を受けて、近藤たちは京へ旅たつ。
京で 「新選組」 と名乗り始めた彼らには、さまざまな試練が待っていた。
沖田総司を待っていたのは、芹沢鴨の粛清。初めて人を斬ったことにパニックになる沖田に、土方は静かに語りかける。
「己の心にウソがないなら、ただ己を信じて闘うんだ。新選組は、そういう武士の集団なんだ」
沖田は土方の言葉を聞いて、決意を新たにする。
元治元年6月5日...。新選組を世に知らしめる 「池田屋事変」 が起こる。
近藤の号令に従って斬り込む隊士たち。乱闘の末、新選組は大勝利を収める。
しかし、大きくなる新選組を憂いて離れていく人もまた、いた。
総長・山南敬介。
新選組を脱走し、沖田に素直に連れ戻された彼は土方に説く。
「私は盆栽が好きでした。 ・・・新選組というのは、 この盆栽に似ている 。
自然の中で悠々と咲く桜ではなく、小さな鉢の中で美しい形を作ろうとして
不自然な枝が出てきたら容赦なく切り捨てなくてはならない。
私は君たちと新選組を作 ってから、盆栽よりも自然の桜のほうが好きになったんだ。
それが君の、新選組 の武士道だとすれば・・・私はついていけない」
そして、こう語った。
「土方君、 Deja Vu という 言葉を知っていますか? 予感とでもいうか...
私はいつか、こうなる事を、どこか深い処で予感していた気がするんだ」
山南は、潔く切腹を受け入れ...
「かっちゃん・・・俺だって山南さ んに生きていてほしかった」
沖田「それからの新選組は、近藤先生と土方さんの指揮のもとどんどん大きくなり幕府の信用も厚くなり、
厳しい法度のもとに何人もが粛清されていきました。
土方さんの言う通り・・・武士も農民も、幕府も薩長も、身分や出生も関係なく
時代も人も入り乱れる世の中で、新選組が進むにはそれしかなかったのかもしれません。」
時代は確実に移り変わっていた。徳川が政権を返上する「大政奉還」が行われ、
サムライの世は終わろうとしていた。土方は着物から洋服へ着替えてフランスから戦法を取り入れて闘おうと近藤を誘うが、近藤は洋服は勘弁してくれと抵抗する。
江戸に残してきたツネとお玉に会いたいな...と想いを馳せる近藤。
しかし、土方の想いとは裏腹に、世情は変わっていく。
鳥羽伏見 から始まった激しい戦のさなか、幕府軍の士気は下がり負け続け
新選組をはじめ幕府軍は追われるように京の都をあとにした。
沖田は患った労咳でもう動けず...
近藤は責任を負って官軍に降伏をすると土方に語った。
必死で止める土方に、近藤は特技を見せて万感の想いで微笑んだ。
近藤は斬首となり、沖田は病死...。義兄弟の誓いを結んだ3人は、こうして土方だけが残った。
近藤「としに出会えたことは俺の宝だ」
沖田「生きてくださいね...大好きですよ、土方さん」
気がつくと、土方は眠っていた。函館の一室...。小姓の市村鉄之助が土方を起こす。
「悲しい夢を見ていたのですか...?」
土方は市村と、京時代の懐かしい思い出をひとときの間語る。
土方 「諸君!俺たち旧幕府軍は蝦夷地に入った。
この地の冬は厳しい…しかし、俺たちに士道ある限り、敵の軋轢も、寒さにも負ける事なく戦い続けるのみだ。
蝦夷地は海に囲まれている。これから俺たちは軍艦回天″で海へ出て戦う。
接舷するぞ!!敵艦に接舷と同時に斬りこむ!!
今ここにいる新選組隊士は全員ついて来い!アボルタージュ!!」
隊士たち「ダコール!」
土方指揮のもと、アボルタージュ作戦が執り行われる。しかし、浴びせられるような砲撃に劣勢になっていく新選組。
深追いをした野村利三郎が目の前で散っていき...また他の隊士たちも被弾していく。
昨晩、酒を飲んで笑っていた隊士たちが死んでいき...
土方 「・・・今ならわかる。隊士の命を一人でも守りたいと言った近藤さんの気持ち。俺はこれからどうすればいい?」
土方の部屋に、総指揮官・榎本武揚がやってくる。
榎本は夢を語り、その姿が土方にとって近藤と重なって見えるところがあった。
しかし、榎本は近藤と違って洋服を率先して着こなし、どう見ても近藤には似ていない。
榎本「私も近藤さんに会ってみたかった」
榎本はそういいながら、人には見せない<特技>を土方にして見せる。
それは、近藤が得意としていたのと同じものだった。
土方は市村に、愛刀と写真を渡す。これを、日野の佐藤彦五郎に渡せ、と託ける。
市村 「私も最後まで副長と一緒に闘いたい!」
土方 「みんな死んでしまったら誰が新選組を伝えるんだ!」
市村は断腸の想いで土方から託されたすべてを抱え込み、函館を抜け出した。
市村を見送った土方の部屋に、大鳥圭介がやってくる。
土方の心情に踏み込みがちな大鳥に、土方は「俺はあんたが嫌いだ」と言い放つが大鳥はにこりと笑って「私は君が好きですよ」と答えた。
その言葉が、今度は沖田の声に重なって聞こえてくる。
土方が不思議な思いでいるところに、大鳥は問いかける
大鳥 「土方さん・・・ Deja Vu というのをご存知ですか?」
いつか山南が土方に伝えたその言葉を、大鳥から聞くことに戸惑いながら、土方と大鳥はデジャヴュを感じる。
土方 「生きてこの国の行く末を見続けてくれ。それがあんたの役目だ。」
大鳥 「私の役目・・・わかりました。」
土方の周りには、過去にすれ違った人々がめぐる。
近藤勇、沖田総司、榎本武揚、大鳥敬介
山南敬介、そして隊士たちの呼びかける声...。
「命を懸けて闘った侍の血は、のちに碧色に変わるという。
今日まで俺は闘い続けてきた・・・生き場所を探して迷いながら。
だが俺はもう迷わない。この先に何が待っていようと、ただ命の限りに闘う
・・・新選組副長、土方歳三・・・これが俺の誠だ!」
土方の魂の限りの叫びの中、銃声が響く...。