陣内ファミリー |
仁 「あの子が・・・オレのハーマイオニーが、母親に殺される夢。
そして、誰かの引きちぎられそうな悲しみの感情が
飛び散って・・・消えた・・・」
仁は悪夢から飛び起きる。あの子を蘇らせる魔法…力いっぱいに唱えても届かない。
そこに、仁の母親・女優、陣内 紫(ゆかり)と父親の陣内 小太郎が帰宅する。
小太郎は、仁の憧れのイギリスへ海外旅行に行こうと提案する。
紫 「ホテルはどこなの?私5ツ星ホテルでなきゃいやよ!」
小太郎 「我が陣内家ゆかりのお屋敷が、イギリスにあるらしい」
仁 「・・・なんだかんだ言って、仲がいいなうちの親は。
あんな風に誰かと愛し合えたら素敵だろうな。
友達はすぐに『つき合った』とか『別れた』とか、その数が多いほど
すごいみたいに言い合ってるけど・・・
あの人たちを見てると“愛”ってそういうことじゃないと思うんだ。
よくわかんないけど・・・もっと深くて、静かで、優しくて、心地よくて・・・
イギリスに海外旅行か・・・ハリーポッターに会えるかな。
オレのハーマイオニーは、どうなったのかな・・・心配だな・・・」
ロンドンにて |
ロンドンの屋敷についた3人。電気をつけると、 奥の椅子に横たわる様に、アベルが眠っていた。
握手をする小太郎。アベルは、その手からカインの魂を感じる。
仁は、100年間眠っていたというアベルに興味津々。
アベルはマイペースな家族に振り回されて困惑する。
ふたりの想いとひとりの少女 |
仁 「貪欲になるから、戦争がおこったり紛争があったり・・・人は清らかには生きられないんだな」
アベル 「以前、清らかに生きて死んでいった少女を知っている」
仁 「オレも・・・キラキラして俺の夢の中によく出てくる不思議な女の子がいるんだ。」
仁はアベルとの会話に、アンジェリーナが実在の人物だったと確信する。
仁 「あの子は死ぬ前からずっと、夢に出てきてこぼれるように笑っていた。
あの子に会いたいってずっと思ってた。でも・・・あの子は死んでしまった」
アベル 「アンジェリーナ・・・」
仁 「アンジェリーナっていうのか」
アベル 「100年目に起こる新月の夜の悲劇・・・
お前が夢で見た光景は、確かに100年前に起こった真実だ。
繰り返される惨劇、この家に関わる子供は不治の病にかかり母親に殺される運命・・・
お前も早くここを出ろ。悲劇が繰り返されないうちに」
仁 「だいじょうぶだよ、うちの親は子供を殺したりしない」
アベルのバースデー |
打ち解けはじめるふたりの間に、両親がバースデーケーキやプレゼントを持って乱入してくる。
「ハッピーバースデー、アベル!!」
アベル 「僕の・・・誕生日?」
小太郎は、屋敷で日記を見つけていた。
代々の親が子どもに向けて綴ってきた日記。そこにはエヴァがアベルの誕生を祝う日記が残っていた。
紫 「愛されて生まれてきたんだね」
アベル 「僕は・・・愛されてなんかいない」
紫 「子供を愛さない母親がいるわけないでしょ?そんなこといったら、あんたのママが悲しむわよ。」
日記には、人間となったカインが綴ったものも残されていた。
小太郎 「俺とヴィオレッタは人間の生活を始めた。神の新しい罰は俺たちには幸福だったけれど、
アベルを裏切った罪の意識は消えない。…このアベルって君のことかい?」
カインが残した日記には、アベルに向けてのカインの後悔と愛、母親エヴァの愛が詰まっていた。
忘れていた誕生日。アベルは、陣内一家との愛と笑顔に包まれていた。
100年目の呪われた夜 |
ある夜。
紫が赤いリボンを仁の首にかけようとするのをアベルが制止する。
紫 「この間の日記に書いてあった。
100年毎の新月の夜、病気になった子供を母親が殺すって、
そんなつまんない伝説にこの私が屈するわけないでしょ。」
仁は、進行性の癌に侵されていた。
仁 「紫さんも小太郎パパも、もちろん僕の病気を知ってる。でも病気だからって
悲しい顔をしたら病気に負けちゃうから、生きれるだけ生きろって言われたんだ。
うちの親らしいだろ?」
アベル 「死ぬのが怖くないのか?」
仁 「そりゃ怖かった・・・いや、今でも怖いよ。
でも僕、この両親の子供だから・・・やっぱり負けちゃいけないんだなって」
紫 「あんたが私より先に死ぬなら、最後まで見ていてあげる。
もし、死んで地獄に落ちたら根性で這い上がって、生まれ変わりなさいよ。
そしたら、また私があんたの親になってあげるから」
仁 「・・・うん」
紫 「病気になんて負けんな、仁!」
仁 「うん!」
紫 「私の中の何かが・・・魂っていうのかな、今まで言いたかったのに
ずっと言えなくて、とてもつらかったって言ってる。
だから・・・忌まわしい伝説なんて私で終わりにしてあげる。
子供を愛さない親なんていない。愛のない世界なら、愛を作ればいいのよ。
・・・あなたは愛されて生まれてきたのよ、アベル」
小太郎が、カインの残した日記を読む。
小太郎 「『もし、これから100年先、100年先に、この家の者が
小生意気な時代錯誤のガキに会ったら、そいつには優しくしてやってほしい。
そいつは、ずっと一人で孤独に生きてきたけれど、とてもさびしがり屋なやつだから。」
カインの魂が小太郎に、エヴァの魂が紫に宿る。
小太郎 「最後までお前の相棒でいられなかったけれど、お前が好きだった。・・・お前を愛していた。」
紫 「例え身体がなくなっても、心はいつもあなたの側にある。愛しているわ、アベル・・・」
紫 「私たち、きっとまた出会っていくわ。これからもずっと」
みんなはアベルにありったけの愛情を向けていく。
そして、愛。 |
アベル 「もう・・・十分だ・・・僕は愛に、愛に満たされている」
アベル 「僕にまだ命が残っているなら…お前が“生きたい”と本気で願うなら、僕のこの命を受け取れ。」
アベルの極としての力を感じる仁の目に、アンジェリーナが映る。
仁 「キミに会いたかった・・・オレのハーマイオニー」
アンジェリーナ「あなたね、いつも夢に出てきた・・・やっと会えた」
仁 「信じてたよ、きっと会えるって」
アンジェリーナ 「ありがとう、いつも私を思ってくれて」
アベル 「・・・生きろ、仁」
アンジェリーナ 「元気に生きて。いつもあなたを見ているから」
そして、愛。 |
仁は目を覚ます。そこに、アベルやアンジェリーナの姿はない。
ただ、何かが違っているふうに、仁には感じられていた。
朝日が昇る。仁は、しっかりと正面を見据えて、愛と力と命を感じながら力強くつぶやいた。
仁 「ちゃんと、生きなくっちゃ」