オープニング |
仁(じん)は夢を見る。魔法が叶う、その瞬間を。
仁 「またあの夢を見た・・・そうだ、きっと君は俺のハーマイオニー!」
落雷の向こうから現れるのは、極(きょく)の存在
「もう永遠の楽園へはもどれない」
赤い糸に絡めとられていく女性。その運命は、極の存在と共に翻弄されていく。
アンジェリーナとアベル |
アベルの遠縁にあたるアンジェリーナは、孤独に生きるアベルが気になる。
アンジェリーナ 「あなたの事が心配なの。あなたはいつも一人なんですもの」
アベル 「寂しいと思ったことはない」
極の存在として永遠の時間をただ存在し続けるだけのアベルにとって、
アンジェリーナの生命の煌きが眩しく感じられた。
アンジェリーナ 「かわいく、かわいく、かわいくな〜れ!」
大好きなアベルに笑顔になって欲しいアンジェリーナ。どれだけ邪険にされても
めげずにアベルのために笑顔を振りまく。
そんな陽気に見えるアンジェリーナにも、強いつよい決意があった。
アンジェリーナ 「・・・あのね、アベル・・・私、絶対に負けないから。」
神話の恋 |
アベルは聖書を読む。創世記にある「カインとアベル」の物語。
それは人類さいしょの兄弟殺しの物語。
話は、神代の時代にさかのぼる。
カインは、豊穣の女神・ガイアと恋に落ちた。
ガイア「神と人の恋など、許されない」
カイン「私達は“愛し合う”初めの存在になろう」
想いを寄せ合うふたりを、神は許さなかった。
激しい雷がふたりの仲を永遠に引き裂く。
アベル 「互いを『愛し合うこと』を知った2人は、
神の怒りに触れ、未来永劫、互いの存在を探し続け、引き裂かれる運命(さだめ)を負った」
ガイア 「私たち、きっとまた出会っていくわ。これからもずっと…」
そして、悲劇が始まる。
仁とアベル |
現代に生きる仁。夢の中で、いつも彼を励まし続けてくれる女の子が病に倒れる夢を見ていた。
仁 「小さい時から大好きだったハリーポッターみたいに勇敢に立ち向かえば、
魔法は本当になって奇跡を起こすって、そう考えるとワクワクした」
アベルはまるで共感するような空間で自身の孤独を憂う。
アベル「気の遠くなるような孤独・・・時を見続ける。死ぬことも許されない。何の目的もない。
歴史の流れをただ、時と共に流れていく・・・」
極の対(つい)の存在であるカイン。
アベルの苦悩は、カインにとっては取るに足らないものだった。
カイン 「人は罪を犯す生き物だ」
アベルの死 |
アベルは自分の過去を思い出す。極という無にも近い存在になったその日のことを。
罪を犯した日のことを。
エヴァ 「あなたは病気なの。不治の病でもうすぐ死ぬの。私には耐えられない…。
だから私が殺してあげる」
100年ごとの新月の夜、病んだ子どもが母親に殺される。
そんな呪いのような輪廻に見舞われた家系の、アベルは犠牲者だった。
エヴァはアベルを絞め殺し、そのまま自分も胸を突いて自害した。
それを見ていたカイン。カインはエヴァの姿を見続けていた。
出会った瞬間に別れる。
エヴァはガイアの輪廻であり、呪われた愛の罰をカインはただ見続けるしかできなかった。
やがて去っていこうとするカインの目に、横たわるアベルが入る。
アベルの魂に惹かれた彼は極の存在として、アベルを目覚めさせる。
カイン 「目覚めよ、アベル・・・我が『極』の存在、“見守るべきもの”として」
カインとアベルの孤独 |
アベル 「夢を見ていた・・・僕が人ではなくなった、あの時の夢を」
アンジェリーナの秘密 |
アンジェリーナ 「ねぇアベル、お母様がね、あなたのために自慢のパイを焼いたのよ!」
アベル 「伯爵夫人が自分でパイを?使用人に混ざってそんなことをするなんて
君の母上はずいぶん変わってるな。」
アンジェリーナ 「あらそう?あなたや私に、元気に育ってほしいからって。
はやく大人になって、私達やその子供にも素敵な家族を作ってほしいって」
アンジェリーナにつられて、思わず笑顔になるアベル。
そんな彼を見て嬉しくなったアンジェリーナだったが、彼女の身体を急な発作が襲う。
アンジェリーナ 「・・・大丈夫・・・心配しないで。時々、こうなるの・・・でも、もうおさまったから。」
アンジェリーナは心配するアベルに夢の話をする。よく見る、彼女を元気付ける夢を。
「私の夢にね、男の子が出てくるの。
どこかの学校のマントを着て、めがねをかけた不思議な男の子。
その子はいつも、私の事を“ハーマイオニー”って呼ぶのよ。
それで、私が苦しくなった時にはいつも“がんばれ、がんばれ”って言ってくれるの。
ね、素敵な夢でしょ?」
しかし、アベルには予感があった。100年ごとの呪われた夜が、彼女に振りかかることを。
アンジェリーナの死と、運命の邂逅 |
ある夜。アンジェリーナは母ヴィオレッタと一緒にいた。
ヴィオレッタの手は、アンジェリーナの首を絞めようとしていた。
アンジェリーナ 「おかあさま、私知っていたわ。私はもう長くないんだって…。
でも私が悲しい顔をしたら皆が悲しむ・・・
誰も悲しませたくなかったから、それまではいつも笑って生きようって決めていたの」
カインとアベルは、その様子をただ見続ける。
極の存在として…。アベルにもカインにも、愛する人との別離の瞬間が近付いていた。
アンジェリーナ 「でも私・・・大人になって、アベルの奥さんになりたかったな・・・
大好きよ、アベル・・・。悲しまないで・・・さようなら、お母様・・・」
アンジェリーナはナイフを突き立てて、自ら命を絶つ。
狂乱するヴィオレッタは、そのナイフでまた自分の胸を突こうとする。
その瞬間、カインが駆け寄り身をもってそれを止める。
カイン 「・・・長い時を・・・彼女を追い続け、その死を見てきた。
愛する人が死ぬ間際に、俺達は出会う・・・神から与えられた運命。
永遠に引き裂かれ、ともに過ごすことを許されない。
愛する者の死を見るのはもう終わりにしたい・・・
神よ! 愛し合う事が罪ならば、それ以上の罰を与えてください!」
アベル 「カイン・・・僕をひとりにすることは許さない!」
カイン 「もう、『極』を守る事は出来ない。世界の均衡が崩れても、
俺にはもうそれを守ることはできない・・・俺は人間として愛する人と共に生きる!」
アベルの崩壊 |
5人は心から本能的に紡ぎだされるように、言葉の糸を紡いでいく。
カインとヴィオレッタは互いを求めて手を伸ばし、抱き合う
アベルは悲しみのあまり叫び声をあげる。
アベル 「・・・残された僕に・・・なにを望む? この手に残ったのは、過ぎ去った愛と優しさだけだ。
裏切りと孤独の闇の中で・・・もう、僕には何もできない。
・・・僕は・・・全てを失った・・・。
砕け散れ、僕の魂・・・氷のような孤独を、一人で過ごすのか?
永遠の孤独から、誰か僕を解き放って・・・
僕の魂よ・・・砕け散れ!!!」