李香蘭 ■ 梦月楓
「望郷ノスタルヂア〜李香蘭〜」が終わりました。
何ともいえない気だるい感じが残っています。
それは、人々の一生を「見送った」重みかもしれません。
2ケ国の間の血で揺れ動き、
どちらも選べない焦燥感や絶望感に、私自身も覚えがあります。
同じ人間なのに。何度そう叫んだことかわかりません。
川島芳子さんが書き残した掛け軸に
「日本人たる前にアジア人であれ」という言葉があります。
それはまさに、あの混沌とした時代で生きていく上で、
国という曖昧なラインにしか縋れなかった人の心の弱さを叱責する言葉だと思います。
両国の間に立つ人間だからこその心の叫びを、李香蘭も感じていたと思います。
今回、私はタイトルロールでもある「李香蘭/山口淑子」という人物を演じました。
今日この時点でもご存命の山口淑子さんご本人と語ることは出来ませんが、
あの時代を生きてきた人たちが「現在」に語り掛けたい心を
少しでもお伝えできただろうか、と願って止みません。
声を荒げず。泣かず。
懇願ではなく、諭すでもなく、伝える。
お稽古の段階で演出家からそう言われていたクライマックスのシーンに悩みました。
戦争を知らない私が言える言葉だろうか。
あの時代の死も別離も知らない私が語っても良いのだろうか、と。
けれど、本番でお客様を目の前にして、
初めて心から落ち着いて皆様の目を見渡せたと思います。
努めて、全員のお顔を見ました。目を見ました。
「あなたが選び、自分自身の足でしっかりと
この大地を踏みしめて歩いていってください。
自分で選び、未来を作ることができるのは今を生きるあなたたちなのですから」
全5ステージ、私からはお客様全員のお顔を認識しながら目を合わせていきました。
誰も、目をそらす人はいませんでした。
なんとも言えない惨い現実を踏まえ、目をそらさず、
そうやって残してくれたこの世界で
彼らの心に恥じない気持ちで生きていきたい。
そう伝えながら、私自身も強くそう思った作品でした。
舞台人として、一人の人間としての転機となる作品でした。
素晴らしい作品に巡り合え、演じられたことを感謝しています。
その全てを支えてくれた、最高のチームワークを持ったスタッフと
真摯な目で作品を受け止めてくださったお客様に、心から感謝します。
ありがとうございました。