「何年経っても、この多摩の河原だけは変わらねぇな」
 舞い散る風に、桜がひとひら

 土方の手のひらに吸い込まれるように落ちてくる



 「逝ったのか……お前も……総司」
 蝦夷で戦う土方は、幕府軍の終焉を悟っていた。


 「これを、日野の俺の家に届けてくれないか」

 「写真と刀……まるで形見じゃないですか!」


 市村鉄之助は、土方と新選組の全てを重く受け止めて

 蝦夷を後にした。



 「これでもう、思い残すことはない」


 「この写真が巡り巡って私の元に来たのは

  不思議な気がいたします」



 洋装の里乃が、土方が残した写真を手に登場する。



 「時折、耳を澄ませると声が聞こえる。

  懐かしいような、まだ会ったことのないような……」


 「こうして耳を澄ませていると、あなたの声が……

  逝ってしまった人たちの懐かしい声が聞こえる気がします」


 土方の意識は、かつての多摩川の河原へ。


 「土方さん。出稽古の帰りに稽古をつけてくれるって

  約束したじゃないですか。忘れちゃったんですか?」


 「いつか、みんな変わっていっちゃうのかな」


 「今よりも前を歩いていると思えば、寂しくともなんともねぇ」


 山南との思い出を語る土方。



 「俺は鵜飼いの鵜になって獲物をとってくる。

  山南さんは、鵜の首をつなぐ縄だ。

  いつか、俺が突っ走ってとまらなくなったら

  縄を持ってきて俺を捕まえると……山南は言った」


 「だから山南さんは切腹したんですね」


 山南の死を語りながら、土方は沖田に問う。



 「総司。初めて人を斬った時のことを憶えているか」


 「はい。私が初めて斬ったのは……芹沢先生でした……」


 「芹沢 鴨か。……そうだったな」


 芹沢粛清の恐怖に、自分を失う沖田。

 「私は、人を斬るのが怖い……!」


 「総司! これが俺たちの仕事だ! 侍の仕事なんだ!」
 
 「人を斬るたびに、自分も周りにも闇が増える……

  俺も同じさ。

  俺が、何も感じないで人斬りをしていると思うのか」


 「いいえ!」


 「それでもあの人には死んでほしくなかった……」


 山南へ馳せる里乃の思いを感じ、沖田の精神は里乃へと繋がってゆく。


 「明里さんでしょう?」


 「沖田はんには、うちが視えるんどすか?

  お久しぶりどす。島原でお世話になった明里どす」


 「明里?……山南の馴染みだった、島原の天神か」


 やがて土方にも、沖田や里乃の気持ちが通じてくる。


 土方は、姿の見え始めた里乃に伝える。


 「桜のように生きて散りたいと、いつもあいつは言っていた」


 「うちはあの人と約束したんどす。うちの桜を咲かせる、って。

  山南はんがいつか行きたい、言うてはった

  メリケン(アメリカ)にも行ってきたんどす」


 やがて、時代は元治元年6月5日。池田屋事件へと向かう。


 「ずっと隠していたのにバレてしまったな……

  私は労咳なんです。

  労咳は死の病です。傍によると感染りますよ」


 「総司……俺より先に死ぬなよ」



 「近藤さん。あんた……怒ってんじゃねぇのか?

  小さい頃からずっと一緒にやってきたのに

  何故自分に従わないのかと……恨んでんじゃねぇのか?」


 「土方さんは、それでいいんですよ」


 「俺が今まで歩んできた道は」

 「迷いながらも生きた日々は」

 「血の涙を流してかぶった鬼の面は」

 「悲しい笑顔で振り下ろした刀は」

 「浅葱の羽織に託した心は」


 「全てを受け入れ、全うしたその命は

  後の世までの受け継がれていくんどす」


 「俺は戦える……!」


 大鳥 圭介が、土方の部屋を訪れる。

 「あんたは今まで何のために戦ってきた?」

 「……生きるため。この国を生かすために戦ってきたのだと思います」

 「ならあんたはやっぱり生きるべきだ」

 アメリカで新しい世界を見つめ、新しい自分へと動き出す明里(里乃)。
 蝦夷で新選組を率いて戦い続ける土方。
 江戸で病に倒れ、動けない沖田……。

 それぞれの思いを胸に、彼らは 「誠」 を探し続ける。
 
 
 
 
 土方の旧友である伊庭 八郎との再会。

 他愛ない話の中に、つかの間の笑顔が漏れる。


 「伊庭。俺は明日戦に出る。多分……もう戻らない」

 「……そうか。あんたらしく、華やかに散ればいいさ。

  俺たち、後の世に名を残せるのかな……」


 走馬灯のように浮かび上がる思い出の中に

 土方は己の誠を見出していく。



 「あなたは思いのまま、生きればいい

  ただ、心のままに」



 「土方歳三……これが俺の誠だ!」




 「明治2年5月11日。新選組副長 土方歳三は

  鮮やかに散っていきました」



 桜が舞い散る中、里乃は人々に語りかける。

 彼らが生きた証を。その息吹を。その熱を。