舞台 本番レポート

序 章
「言ったじゃないか? 蝦夷でお前を待っている」

新選組の局長・近藤が斬首になり、「新選組」が逆賊になり消えていく中、
副長 土方歳三(大浦薫) が、病床の 沖田総司(葵かずき) を見舞う。
これから蝦夷へ行き戦い続けるという土方を、労咳という死病を患った沖田は切なく見守る。
共に蝦夷で戦いたいと縋る沖田を諭した土方に、沖田は一通の手紙を渡した。

「いつか新選組が道に迷った時、あなたに渡してくれと頼まれました」

それは、かつて脱走の罪で切腹をした、新選組総長 山南敬助からの手紙だった……。

「俺たちは力の限りに生きてきた。誰がなんと言おうとも、己の誠に真っ正直にぶつかって。
 だから、絶対に忘れさせやしないさ、新選組のことを……皆、必死に生きていたんだと」

  

第1場  桜の章 1 
「私は必ず生き抜いてみせる!」

走り続ける沖田総司。戦いの中で、己の存在を感じる土方歳三。
刀を振るい続けることに、疑問を持ち始めた山南敬助。
仇を討つと強い決心で、変わり続けようとする明里……。
それぞれの思いが交錯する中、新選組では局中法度が制定される。

そんなとき、土方と沖田を目掛けて小柄が飛んできて、女が
「山南敬助、覚悟!」と斬りかかって来る……。

  
「止まったら、私の中の何かが崩れてしまう。だから私は走るしかないんだ」

  

第2章  桜の章 2
「土方くん。初めて人を斬った時のことを憶えていますか」

刺客を追っていった土方を他所に、山南敬助(徳永真理子)は、趣味の盆栽を
沖田に自慢する。そんな茫洋とした山南の態度にいらいらする沖田。
女を取り逃がしつつ帰ってきた土方は、山南に総長としての自覚を持てと解くが
のれんに腕押しのような山南の態度に、やはり2人の間に溝が出来ていく。

  
山南 「桜はいいよ……春になると見事に咲き誇るのに、
散るときは潔く風に吹かれて散っていく。私もそんな風に生きてみたいもんだね」


  

第3場  桜の章 3
「物の本では読んでいたが、現実となるとどうもいかん……」

ひょんなことで島原にやってきた山南と沖田。初めての場所に戸惑う2人の前に、
島原の天神・明里(梦月楓) が登場する。
天神の一挙手一投足に戸惑う2人だが、山南は潔く謝り、怪訝に思っていた明里の態度もほぐれる。
酒を呑み、酔いつぶれて眠ってしまった山南の背後から、明里は帯に忍ばせていた懐剣を取り出し、山南を刺し殺そうとするが、何故か思い留まってしまう。

  
「こんな気分になったのは久しぶりだ。明里、ありがとう」

  
 

第4場 桔梗の章 1
「沖田君、死に急ぐんじゃない」

古高俊太郎を拷問にかけ、勤皇派の計画を知った土方。
血気に盛る彼に、刀を振るうだけでない解決法を求める山南。
2人の溝は深まるばかり……。
そんな2人を心配する沖田に、山南は自分の過去の過ちを告白する。
刀で親友を殺してしまったこと。そして、刀を振るうだけの新選組を憂う気持ち。
強い信念を持っていてもはぐらかしてしまう山南に、沖田は苛立ちを隠せない。

 
「江戸にいた頃のあんたは、そんな風じゃなかったはずだ」
「そうかもしれないね……私は人斬りには賛成できない」


 
「私は時間が惜しい。山南さんのように、根無し草でいたくはありません!」

   

池田屋事件で一躍名を上げた新選組。騒乱の中、労咳で喀血した沖田。
何も動かなかった、山南。
それぞれの人生が、少しずつ一つの道からずれ始めていく。

第5場 桔梗の章 2
「私は君の兄上の仇だよ。さあ、討ちなさい」

池田屋事件の後。島原に訪れた山南と沖田。
酔いつぶれた山南を、明里は懐剣で刺し殺そうとするが、どうしても出来ないでいる。

  
「できない……私には、山南さんを殺す事はできない……!」

  
「この国を変える……その約束を果たしたくて、私は新選組についてきたんだ」

明里を、自分が殺した坂口信一郎の妹・里乃と見抜いていた山南は、
仇を討ちたいという彼女の願いを受け入れようとする。しかし里乃は山南を殺せない。
山南の、坂口を巡る信念の告白を聞き、明里はより山南の人間の大きさに惹かれていく。

同じように、それを見ていた沖田もまた、自身の生き方を見出していく。


「やってみよう。進むのを怖がっていては何も始まらないんだ」

第6場 楓の章 1
「「梅の花 一輪咲いても 梅は梅」……我ながら名句だ」

  
「身請けしようか、私が……?」

  
「総司。俺より先に死ぬなよ」
「……はい、土方さん」

   
「変わりませんね、土方君」
「……あんたもな」

「ずっと幸せでいれたらいいなぁ」

第7場 楓の章 2
「俺は鵜飼の鵜になって獲物を獲ってくる。あんたは鵜の首をひっぱる縄だ」

「壬生狼」と恐れられる新選組の行く末を、山南は案じている。
江戸にいた頃、土方の性格的な暴走をしっかりと諌め止めると約束したことを思い出す。

  
  
「私はどうやったら土方君の……新選組の暴走を止められるか考えているんだ」

   
「不安から逃げ出して、後悔したくはない」
「たまには振り返って自分を見つめることにします」
「私はここにいる。確かに存在した。躊躇わずに感じたい」
「自分で選んで歩いていきます」

   
「私はもう一度生きてみようと思う。もう根無し草ではいられない。
私は人間だから。私が生きた証は、ここにしかないのだから」

第8場 雪割草の章 1
「さくらのごとく、だよ。沖田君」

山南が脱走したのは、それから間もなくのことだった。
京から程近い大津の宿にいる山南を捕らえにきたのは沖田だった。
逃げてくれ、と乞う沖田に、山南は静かに笑って否と答え、一通の手紙を沖田に託した。

  
「この小さな一歩が……新選組を変えるきっかけになってくれればいいな」

  
「沖田君……一手、手合わせをしてくれないかな」

第9場 雪割草の章 2
「沖田君。……これは、私の誠なんだ」

壬生の屯所に戻った山南は切腹を言い渡される。更なる脱走を持ちかける言葉にも耳を貸さず、
山南は静かにその時を待った。
そこに、偶然土方が通りかかる。
万感の思いが2人の間に交差し、やがて笑顔でうなずいたのは山南だった。

明里が駆けつけ切腹を思い留まらせようとするが、山南の意志は強く、遺書となる手紙を渡して
山南は切腹を受けた……。

  
「さあ、行こうか。沖田君」

  
「明里。この手紙を読む頃、私はもうこの世にはいないだろう」

泣き崩れる明里の元に、山南を介錯した沖田がやってくる。
山南に預かった財布を明里に渡し、夢を叶えるために使ってくれ、と伝言を残す。

「私は泣きませんよ。山南さんが残してくれた、命の重さですから」


「山南はん。そこにいやはりますか? うちは自分の桜を咲かせてみせます。
しっかりと見ておいておくれやす」

やがて風の間から、山南の声が呼応するように聞こえてくる。
「さくらのごとく……生きてみたいね」