稽古場日記 幕合い編 山南のひとりごと その4
実は私は神経質だ。
よく、テキトーで豪快でB型だねーと言われるが、実は細かいことにこだわるA型だ。
だからいつも舞台が終わるたびに後悔することがやまほど出てくる。
「あの時」「もしも」ということばかり考えてしまう。
今回は特に、お客さんにはわからなかったが実はあちこちでトラブっていたため、
「墓前になんと報告すれば……」とかなり症状は深刻だった。
そんな時、友人Sと久しぶりに飲んだ。
中学時代からのいわゆる親友だ。彼女は私の過去を全て知っている。
もしも私が過去を消そうと思えば、まず彼女を消さなければいけないというくらいだ。
しかし彼女は芝居の世界のことを何も知らない。観客その1だ。
だから彼女に芝居の話をする時は細かい説明が必要で、前置きが長くなるので
ちょっと面倒だと思うこともある。だが、客観的な意見をスッパリと言ってくれる。
流行のアジアンダイニングのお店で「実はさあ…」と実はいろいろあった本番中のトラブル
について彼女に全部話した。(※本番チクリ編をお読みください)
全てが伝わったとは思わないが「あーそれはツライよねえ」と言ってくれた。
それだけでちょっとホッとした時、おもむろに彼女は
「そんなことより、私、今、腸閉塞にハマってんねん」と言い出した。
「…………。ゴメン、全然、意味わかれへんねんけど」と答えるとさらに、
「この前まではさあ、胃ポリープに夢中やってん」と言う。「……胃ポリープ………(-_-;)」
話を聞くと、彼女は医療事務関係の仕事をしているのだが、仕事について知識を深めようと
[家庭の医学]なる本を買って勉強しているうちに、いろんな病気の図解に目覚めたらしい。
「症状の説明してある図がもう面白くってさあ。」と嬉しそうに話す。
「いいよお、あの本。あんたも読んだほうがいいよ。」と勧められた。
その病気で苦しんでらっしゃる方が聞いたら激怒しそうなことを微笑んで話す。
腸閉塞が好き?胃ポリープが面白い??さらに彼女の話はエスカレート。
店内は照明もちょっと落としてあって川も流れている、OLに人気のおしゃれな店だ。
なのに「最近の水戸黄門、見てるう?アカンよねー、里見黄門って。」
「大体、助さんと格さんが弱そうやねん。顔がいいだけやん。」
「やっぱり西村晃だよね〜♪」ととどまるところを知らない。
私はだんだんと「今まで何を深刻に考えてたんやろう」という気持ちになってきた。
結局、4時間ぐらい店にいたが、そのうちの9割ぐらいは彼女の話をずっと聞いていた。
私の悩みなんか、ほんのわずかな時間しか聞いてもらえなかった。
「……大したことじゃないのかも……。」私の無気力感、絶望感はだんだん溶解していった。
スレンダーで、さらっさらのロングヘアでブランド好きで、見た目は美人スッチーな友人S。
見た目と中身のギャップが激しすぎる彼女の全開トークは、かなり刺激になった。
「あー、まだまだしゃべり足りひんわー」と言いながら帰っていった彼女は今、
[腸ねん転]に心を奪われているらしい。